「のり巻きはありませんか」 「ああ今日はできないよ」肥ったすし屋の主は、鮨を握りながら、尚ジロジロと小僧を見ていた。 小僧は少し思い切った調子で、こんな事は初めてじゃないと云うように、勢よく手をのばし、三つ程並んでいる鮪の鮨の一つを摘んだ。ところが、なぜか小僧は勢よくのばした割にその手を引く時、妙にちゅうちょした。 「一つ六銭だよ」と主が云った。 小僧は落とすように黙ってその鮨を又台のうえへ置いた。